「ごちゃ混ぜ」だけでは、社会は変わらない。「きとなる」を立ち上げた本当の理由

アシックス里山スタジアムの一角にある「コミュニティビレッジきとなる」。そこには放課後等デイサービス「らびっつ」と多機能型事業所「ジョブサポートセンターここすた」、そしてカフェ「里山サロン」が軒を連ねています。

スタジアムを訪れた人が、ふらりとその前を通る。そこで働く人やご利用者様と出会う。そんな、これまでの福祉施設にはなかった日常が、少しずつ生まれています。

けれど、「きとなる」をつくった理由を、単に「いろいろな人が混ざり合う場所をつくりたかったから」と説明してしまうと、それは少し違うかもしれません。

私たちが本当に目指しているのは、そこに生まれる出会いをきっかけに、人と人との関係が紡がれていくこと。それを支える環境をつくっていくことです。

私たちはなぜ、福祉施設をスタジアムにつくったのか。そして、きとなるを通じてどんな変化を起こしたいのか。今回の記事では、改めてその思いを、理事長の越智清仁に聞いてみました。

 

「施設」と「地域」を分けて考えることへの違和感

「コミュニティビレッジきとなる」の構想を立ち上げるうえで、すべての出発点となったのは、私たち来島会が掲げるビジョンでした。

「すべての人が「障害」を感じることなく自分の意思で質高く暮らすことのできる地域社会の実現」

このビジョンが目指しているのは、福祉施設の中だけで支援を完結させることではありません。障がいのある人もない人も、誰もが地域の中で自分らしく暮らし、関わり合える。そんな地域社会そのものをつくっていくことです。


2023年3月「コミュニティビレッジきとなる」落成式で挨拶を述べる理事長 越智清仁

 

ただ、障がい福祉サービスという制度の中で、障がいのある方を支援する仕事をしていると、どうしても日々の支援の中心は「福祉施設の中」になります。目の前にいるご利用者様にどう関わるか。どうすれば、今ここで、より安心して過ごせるのか。大切なことではありますが、どうしても視野が狭くなってしまいます。

さらに目の前の支援を一生懸命に行うほど、福祉施設の中だけに考えが固まってしまうこともあります。結果的に私たち支援者自身が、知らず知らずのうちに「福祉施設」と「地域」を別々のものとして捉えてしまうことがあるのだと思います。

でも、福祉施設もまた、間違いなく地域の一部です。そこで暮らす人も、働く人も、地域社会をつくる一員です。

だからこそ、支援を福祉施設の中だけで完結させるのではなく、地域の中にあるさまざまな人や場所とつながりながら、一緒に暮らしていく。そうした視点を、私たち自身も改めて持つ必要があるのではないか。

そこから生まれたのが、「きとなる」という構想でした。

ちょうどその頃、FC今治が「里山スタジアム(仮称)」という、人が集い、自然とつながり、地域に開かれたスタジアムをつくろうとしていました。

岡田武史会長(FC今治を運営する株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役会長)が描いていたスタジアムの未来と、私たちが目指そうとしている地域社会。その方向には、重なるものがあると感じました。

だったら、スタジアムという人が集まる場所の中に、福祉の拠点をつくってみよう。そこで、障がいのある人とない人が、特別なことをしなくても、同じ場所で自然に出会えるようにしてみよう。

そうして「きとなる」は誕生しました。

 

単なる「ごちゃ混ぜ」で終わらせない実践の場

「きとなる」の話をするとき、「いろんな人が混ざり合う場所」という言い方をすることがあります。それはもちろん、すごく大切なことです。

でも「ただごちゃ混ぜにすれば、それでいい」とは思っていません。同じ空間にさまざまな人がいるだけでは、社会のあり方そのものは、なかなか変わらないからです。

大切なのは、そうした開かれた環境の中で、私たち支援者がどう関わるのか。そして、地域とご利用者様との間に、どんなつながりを生み出していくのか。そこに、私たちの役割があるのだと思っています。

例えば、地域の方が障がいのある方と出会ったときに、「どう接したらいいんだろう」と身構えてしまうこともあるかもしれない。そういうときに、私たちが間に入って、その人のことを知ってもらうきっかけをつくったり、一緒に何かをする機会をつくったりする。

そうやって、「障がいのある人」と「そうでない人」という関係ではなく、「この人」と「自分」という、一人ひとりの関係に変えていく。その橋渡しをしていくことこそ、私たち福祉の専門職にできることだと思っています。

スタジアムという開かれた環境があることは、もちろん大きな強みです。でも、本当に変えていきたいのは、そこにいる人の「ものの見方」や「関わり方」です。

環境が変われば、人が出会うきっかけは増える。でも、その出会いをどう関係につなげていくのか。その人の中にあるものをどう引き出していくのか。

そこに、私たちの役割があるのだと思います。

 

「一人の人」として光を当てること

もう一つ、私たちにとって大切なのは、きとなるという一つのモデルだけを成功させることだけではありません。ここで生まれた実践や気づきを、ほかの施設や地域にも広げていくことです。

例えば、職員が「この人の生きづらさを解消するために、自分たちにできることは何だろう」と考えるようになる。

「施設の中でどう支援するか」だけではなく、「この人が暮らす地域を、どうすればもっと過ごしやすい場所にできるだろう」と視点を外へ向ける。

そうやって、支援者が見ている世界が少しずつ広がっていけば、支援のあり方も自然と変わっていくのだと思います。

最近では、「インクルーシブ」や「ダイバーシティ(多様性)」という言葉が広く使われるようになりました。でも、いくら言葉が浸透しても、それだけで世の中が変わるわけではありません。

「いろんな人がいますね」と頭で理解するだけでは、なかなか人の見方までは変わらない。場合によっては、かえって「自分とは違う人」という線を引いてしまうことさえあると思います。

では、どうすれば人の見方は変わるのか。私は、社会を変えるために必要なのは「感動を伴う、個と個の出会い」の積み重ねだと思っています。

例えば、ある人の表現に触れて、「この人の描く絵、すごいな」「自分にはない視点を持っていて面白いな」と感じる。その人にしかない魅力や個性に心が動く瞬間が生まれる。

そうすると、「この人、すごいんだよ」「こんな面白いことをするんだよ」と、その人のことを誰かに伝えたくなる。それを聞いた別の人が、また興味を持つ。そうやって、一人ひとりの見方が少しずつ変わっていく。

来島会全体で取り組んでいる「イマバリ・パラビエンナーレ」も、まさにそうした考え方から生まれている取り組みの一つです。

そういう変化が、一人、また一人と増えていけば、社会の中にある固定観念、例えば「障がい者は○○」とか「高齢者は○○してあげないと」というものも少しずつ変わっていくはず。だからこそ、私たちが大切にしたいのは、頭で理解してもらうことだけではありません。

実際に出会って、関わって、心が動く。「こんな人なんだ」と知る。「面白いな」「すごいな」と感じる。

そうした一人ひとりの「見方が変わる体験」を積み重ねていくこと。それが、3年間の実践を通して、私たちが大切にしていきたい「きとなる」の役割なのだと改めて思います。

 

3年経った今、そしてこれから

「きとなる」で働く職員はこの3年、支援を福祉施設の中で完結させるのではなく、地域の中にあるさまざまな人や場所とつながりながら、一緒に暮らしていくにはどうしたらよいかという難しい問いに、日々の実践をとおして向き合ってきました。

そのなかで、今ここにいる目の前のご利用者様だけを見た支援ではなく、その人が暮らす地域へ、そしてご利用者様の将来の可能性に目を向けた支援を実践してくれています。

もちろん、こうした変化を法人全体、そして地域全体へ広げていくには、時間がかかります。

実際にその場に行って、誰かと出会って、話をして、何かを感じる。誰かの表現に触れて、「この人、こんなことができるんだ」と驚く。

そういう一つひとつの体験が、人と人との距離を少しずつ縮めていきます。

「きとなる」は、地域の人にとっても、働く職員にとっても、「ちょっと見方が変わったな」と思える瞬間が生まれる場所であってほしいと思っています。

一人ひとりに光が当たり、誰もが「自分らしく生きていていいんだ」と実感できる地域社会へ。私たちはこれからも、焦らず、けれど着実に、この場所から変化を起こし続けていきます。

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