放課後等デイサービスらびっつ 責任者・大沢麻紀子さんインタビュー
「特別なことをしたいわけじゃないんです。ここ『きとなる』が、小さなつながりがたくさん生まれる場所になったらいいなと思って」
そう語るのは、放課後等デイサービス「らびっつ」の責任者を務める大沢さん。「コミュニティビレッジきとなる(以下、きとなる)」の立ち上げから関わり、今では地域に開かれた福祉の実践を支える中心的存在ですが、その原点は、障がいのある方のスポーツ支援に携わった日々にありました。
今回の「きとなる通信」では、大沢さんの歩みと想いを聞いてみました。

「当たり前」だと思っていた景色
大沢さんが来島会に入社したのは約15年前。それまで「今治市障がい者文化体育施設サン・アビリティーズ今治」に勤務していた大沢さんは、同施設の指定管理者が来島会に変更になったことで、そのまま来島会へ入職。そこは障がいの有無に関わらず、さまざまな人が利用する場所。同じ空間で運動し、交流し、時間を過ごす。その光景は、大沢さんにとってごく自然なものでした。
「施設の中では、いろんな人が一緒に活動することが当たり前。だから当時は、それが特別なことだとは思っていなかったんです」
障がいのある方へのスポーツ指導やイベント運営を軸にしつつも、子どもから高齢者まで幅広い利用者と関わってきた大沢さん。しかし、振り返ると一つの「気づき」があったと言います。
それは、施設の中では自然に生まれている障がいのあるなしに関わらない交流が、地域全体ではまだ当たり前ではないこと。
「施設の中では混ざり合えていても、一歩外に出るとそうじゃない。今思うと、そのギャップをずっと心のどこかで感じていたんだと思います」

その後、大沢さんはその後、保育士資格を取得。放課後等デイサービス「なかよし学童くらぶ」で、子どもたちやご家族とじっくり向き合う日々を過ごしてきました。
「きとなる」ができると聞いたとき
数年前、大沢さんは新しい施設の立ち上げ準備に関わることになりました。それが現在の「きとなる」です。
まだアシックス里山スタジアムも完成していない頃、「ここで新しい福祉のかたちをつくる」という話を聞いたときのことを、大沢さんは今でもよく覚えています。
「正直、最初はまったくイメージが湧かなかったですね」
そう言って笑う大沢さん。それでも、不安よりも期待の方が大きかったと言います。
「これまでにない施設になるだろうなと思いましたし、準備段階から関われることが楽しみでした」
当時から来島会が掲げていたのは、「インクルーシブな社会の実現」。障がいの有無に関係なく、誰もが自然に関わり合える社会のモデルを、この地域の中につくろうという挑戦でした。そしてそれは、大沢さんがかつて感じていた「あの景色を地域に広げたい」という思いと重なるものでした。
「もし本当に実現できたらすごいなと思いました」
子どもたちにとっての「実践の場」
そうして完成した「きとなる」。地域の人が散歩を楽しみ、試合の日には多くの人が訪れ、カフェや広場には子どもたちの声が響く。そんな場所で大沢さんたちは、「施設の中だけで完結させないこと」を大切に、日々活動しています。
子どもたちと散歩に出る。
地域の人にあいさつをする。
犬を連れた人に声をかける。
広場で遊んでいる子どもたちと同じ空間を共有する。
そうした何気ない日常の積み重ねこそが、「らびっつ」らしさを作っています。
大沢さんに「きとなるって、子どもたちにとってどんな価値がある場所ですか?」と聞いてみました。すると返ってきたのは、「学んだことを、すぐに実践できる場所」という答え。
施設の中では、あいさつやルール、相手との関わり方、自分の気持ちのコントロールなどを学びます。でも、それが本当の意味で身につくのは、やっぱり実際の社会の中で使ってみたとき。
「ここでは、扉を開けたら目の前にすぐ『地域』があります。だから、学んだことをすぐに試せるんです」
例えば、ここを訪れた地域の方がトイレの場所を探していたら、子どもたちが「こっちです」と自然に案内する。お散歩中の地域の方に「こんにちは!」と声をかける。 そんな何気ない場面の一つひとつが、子どもたちにとって大切なチャレンジの機会になっています。
「特別なことをしたいわけじゃないんです。ここ『きとなる』が、小さなつながりがたくさん生まれる場所になったらいいなと思っています」

まずはみんなで、やってみよう
大沢さんの話の中で何度も出てきた言葉があります。それは、「まずやってみる」ということ。その象徴となったのが、みんなで挑んだキャンプ活動でした。
「せっかくこんなに自然がいっぱいの場所だから、いつかみんなでキャンプをやりたい」
施設を開設した当初から、大沢さんの胸にはそんな想いがあったそうです。まずは日帰りのデイキャンプから始めて、次は宿泊キャンプへ。一つずつ経験のステップを積み重ねてきました。
もちろん、最初から不安がなかったわけではありません。 普段の施設とは違う環境、初めてお泊まりする子どもたち、スタッフ自身もみんながキャンプ慣れしているわけではありませんでした。それでも、思い切って実際にやってみると、予想とは違う嬉しい発見がたくさんあったと言います。
「普段の様子から『この活動は少し大変かもしれないな』と心配していた子が、大自然の中ではものすごく落ち着いて、生き生きと過ごせたりするんです」
逆に、いつも通り過ごせると思っていた子が、環境の変化に少し戸惑う場面もありました。 やってみなければ、分からない。だからこそ、みんなで挑戦する価値がある。
「無事に終わったときは、子どもたちだけでなく、スタッフにとっても『できた!』という最高の成功体験になりました」

扉の外に広がる、新しい出会いとヒント
たとえ不安や難しさがあっても、まずは一歩踏み出して新しいことにチャレンジする大沢さん。その前向きなエネルギーは、一体どこから湧いてくるのでしょう。理由を尋ねると、こんな答えが返ってきました。
「シンプルに、自分の知らないことや、考え方に出会いたいんです。福祉の世界だけに閉じこもっていると、どうしても考え方や支援の視点が固定化してしまう。だからこそ、自分とは異なる視点を持つ人たちの話を聞きたいんですよね」
大沢さんは、福祉の専門研修だけでなく、アートのワークショップやトークイベントなど、一見異なるジャンルの場にも積極的に足を運んでいます。そんな異分野の刺激の中から、新しい支援のヒントが見つかることも少なくありません。
最近も「イマバリ・パラビエンナーレ」の取り組みの一環で、アーティストによるワークショップを体験したことがきっかけで、「らびっつにある『感覚統合室』の使い方も、もっと自由で枠にはまらない形があっていいのかも」とインスピレーションを受けたそうです。
「もちろん、すべてを取り入れるわけじゃありません。でも『そんな見方もあるのか』と知ることが、自分たちの可能性を広げてくれる気がするんです。」
福祉という枠を飛び越え、地域の中に小さくてあたたかい日常のつながりを増やしていくこと。そのために、まずは自分たちから楽しんで一歩を踏み出す。そんな大沢さんの力強い姿勢が、最後に印象的な言葉として返ってきました。
「だから、まずはやってみたらいいのかなって。それでうまくいかなかったら、それはその時にまた、みんなで考えたらいいかなって思っています(笑)」