「ただ一緒にいる、という豊かさ」 里山で過ごした『きとなるキャンプ』レポート

ずっと雨予報が続いていたなかで迎えた、5月の土曜日。空はなんとか持ちこたえ、「コミュニティビレッジきとなる(以下「きとなる」)」には、少しずつ荷物を抱えた参加者たちが集まってきました。

「雨、降らなくて本当によかったですね!」
笑顔を交わしながらスタートしたのは、1泊2日の「きとなるキャンプ」。
里山の豊かな自然に囲まれ、地域の人たちがふらりと立ち寄ることで、日々新しい出会いが生まれる「きとなる」。そんなこの場所を存分に味わいながら、みんなで少しだけ日常から離れ、いつもとは違うことにチャレンジしてみよう。そんな思いから生まれたのが、この企画です。

今回は「ジョブサポートセンターここすた」の利用者さん7名はじめ様々な方、計12名が参加。スタッフの都築さんは、開会にあたってこう呼びかけました。

「思い思いの時間を、ここでゆるっと楽しく過ごせたら。そして少しでもみんなで共有できたら嬉しいです」
同じくスタッフの水本さんも「これは訓練ではない」と言葉を添えます。誰かに合わせなくてもいい。無理に輪に入らなくてもいい。ただ同じ場所にいて、それぞれが心地よく過ごせること。それが今回のキャンプで大切にしたかったことでした。

 

🤝 はじめましての緊張が、心地よい「協力」に変わるまで

実はこのキャンプは昨年に続いて2回目。昨年の参加者アンケートには、「また参加したい」という声が数多く寄せられました。その理由を振り返りながら、水本さんは印象的だったというエピソードを話してくれました。
昨年、一人の参加者がテントの中にお気に入りのぬいぐるみをたくさん並べ、自分だけの空間をつくって過ごしていたそうです。みんなで活動するわけでもなく、ワークショップに積極的に参加するわけでもない。ただ、自分の好きな場所で、自分の好きな時間を過ごしている。
「それがすごくいいなと思ったんです」

集団活動に参加することだけが正解ではない。同じ空間にいて、それぞれが違う過ごし方をしていてもいい。そんな昨年の経験があったからこそ、今年はさらにプログラムを詰め込まず、“ゆるやかなキャンプ”を目指しました。

※昨年2025年6月開催の「はじめてのキャンプ」の様子

 

参加者は3つの班に分かれ、まずはテント設営に挑戦。最初は少し緊張した表情だったみなさんも、名札にニックネームを書き合い、呼び合ううちに少しずつ表情がやわらかくなっていきます。
「こうやったら立つよ」「教えてもらってもいい?」「ありがとうございます」
気がつけば、あちこちでそんな言葉が交わされていました。
特別な声かけがあったわけではありません。それでも、初対面同士だった人たちの間に自然と協力が生まれていきます。キャンプという不慣れな環境だからこそ、「助けてもらう」「助ける」がごく当たり前のこととして存在していました。

 

昨年に続いて参加してくれたNさんは、実は昨年のキャンプ当日が誕生日でした。
みんなに祝ってもらったこと、楽しかった思い出が忘れられず、今年も参加してくれたといいます。「一人でキャンプに行こうとは思わないけれど、みんなでやるなら楽しいんです。去年ここで知り合った人とのつながりも続いていて、一緒に参加した友人ともさらに仲良くなれました」

また、「ここすた」利用者のKさんも、昨年の経験が大きな転機になったと話してくれました。「同年代の当事者の方と話せたことで、すごく安心感がありました。普段会っている仲間の違う一面が見られるのも面白いですね」
アニメをきっかけにキャンプへ興味を持ったHさんは、「友達が増えるかも!」と楽しそうな表情。「何か手伝いましょうか?」と周囲へ声をかけながら動く姿が、場の空気を明るくしていました。
参加理由はみんな違う。それでも、同じ場所で同じ時間を過ごすことで、新しいつながりが少しずつ生まれていました。

 

🌱 「ここ」から出ていくみんなが、地域の中で豊かに暮らせるように

キャンプ地となった「きとなる」裏庭の「TINY GARDEN by URBAN RESEARCH」は、地域に開かれた交流スペースです。私たちが賑やかにテントを立てている様子を、「里山サロン」のテラス席にいるお客さんや、遊具で遊ぶ親子連れ、犬の散歩中の方々も興味深そうに眺めていました。

今回のキャンプ開催にあたっては、行政窓口やスポーツショップなどにもチラシを配布し、福祉サービスとの接点がない地域の方にも参加を呼びかけていました。結果として、今回の参加にはつながりませんでした。それでも、水本さんはこう話します。

「『ここすた』の中で繋がりができるのも、素敵なことです。でも社会に出たときに、その福祉の枠組みの中だけの繋がりしか持っていなければ、本人の世界がそこで狭くなってしまう。何かあったときに、またこの閉じた場所にしか戻れなくなってしまう。それってすごくもったいないなと思うんです。 だからこそ、手帳の有無で境界線を引かず、地域の中で多様な人たちと出会ったり、繋がりを作ったりしてほしいと思うんです」
キャンプは目的ではなく、あくまできっかけ。人と人が出会い、関係が生まれる入り口の一つです。

 

🏕️ それぞれが自分の居場所で

テント設営が終わると、ゆるやかな自由時間。輪になって話を楽しむ人もいれば、滑り台で遊ぶ人もいる。火起こしに夢中になる人もいる。それぞれが自分にとって心地よい場所を見つけ、それぞれのペースで時間を過ごしていました。
「興味がある人は集まってください!」と始まった薪割りのレクチャーでは、参加者の方から新人スタッフへ「こういう時は、こうやって伝えたほうが伝わるよ」と、アドバイスする一幕もあり、役割に縛られない関係がそこにありました。

実は運営メンバーの1人には「ここすた」の利用者さんの姿もありました。福祉の仕事に興味があり、勉強のためにと挑戦してくれた彼。困っている参加者に声をかけたり、荷物を運んだり。それぞれができることを持ち寄って、このキャンプをつくっていきます。

夕食のカレーづくりも同じです。調理に加わる人、見守る人、片付けをする人。自然と役割が分かれながら、お互いを気にかけ合う姿がありました。
途中、お米を豪快にこぼしてしまうハプニングも。
それでも誰かを責める声はなく、「どうする?」とみんなで考え、笑いながら乗り越えていきました。

 

🌿 あたまの片隅に、この景色を残して

翌朝は爽やかなウォーキングから始まり、朝食を終え、みんなで協力して片付け・撤収作業を行いました。最後の「ひとことタイム」では、こんな声が聞かれました。
「楽しくて最高でした」
「班の中で役割をもって動けた」
「普段見えているのは、その人の一部分だけ。人には必ず素敵なところがあるんだと実感しました」

不便な環境だからこそ、お互いを頼り、助け合う。ただ、一緒に笑い、一緒に過ごす。そんな中で生まれてきた関係性がありました。
地域住民の方々を巻き込むという目標には、まだまだ「伸びしろ」があります。それでも、都築さんは目の前の「里山」に広がる景色を見つめながら、この先へと繋がる手応えを笑顔で語ってくれました。

「今回、すぐ隣で楽しそうにキャンプをしている様子を、たくさんの行き交う人々が目にしてくれました。すぐに大きな変化はなくても、そんな光景が頭の片隅にそっと引っかかってくれていたら嬉しいです。そうして来年のキャンプにふらっと来てくれたら……それはもう、大成功だなって思います」

2日間、里山に響いた笑い声は、きっと地域にも届いていたはず。大きな変化ではないかもしれません。けれど、人と人が出会い、ゆるやかにつながる小さなきっかけは、確かにここに生まれていました。
「きとなる」は、これからもそんな出会いを育んでいきます。

 

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