2026年6月21日、今治市総合福祉センター「愛らんど今治」の多目的ホールにて開催された、2026年度就労支援シンポジウム「自分らしい働き方を選択できる地域へ」~新しい福祉サービス「就労選択支援」の活用と、今治で広がる就労の可能性~後編のレポートをお届けします。(前編はこちら)
パネルディスカッション「障がいの有無なく誰もが意義ある働きができる地域」
シンポジウムの後半は、「障がいの有無なく誰もが意義ある働きができる地域」をテーマに、パネルディスカッションが行われました。全体の半分の時間を割いたこのセッションでは、当事者家族、教育、福祉現場、行政のそれぞれの視点から、今治におけるこれからの就労支援のあり方について、非常に深く白熱した議論が交わされました。

【登壇者】
• 夏目芳行氏(障害者就業・生活支援センターぼらんち センター長)
• 鈴木大樹氏(厚生労働省 就労選択支援専門官)
• 壷内和彦氏(今治市手をつなぐ育成会 会長)
• 桑村佳苗氏(愛媛県立今治特別支援学校 教諭・進路課長)
• 水本かおり(多機能型事業所ジョブサポートセンターここすた 管理者)
• コーディネーター:三幡大輔(社会福祉法人来島会)
・「失敗させたくない」親心と、当事者の「自己決定」
議論の口火を切ったのは、当事者の親の立場である壷内氏です。第1部の講演にあった「進路を本人が決めたわけではない」という実態に強い共感を示しました。「親としては、どうしても我が子を他の子と比較してしまい、『本当にこの職場でやっていけるのだろうか』と常に不安を抱えてしまう」と、切実な思いを吐露しました。これに対し、学校教育の現場に立つ桑村氏は、自己決定の重要性を強調しました。小学部の段階から役割を与え、自分で選択する経験を積ませている実践を紹介。鈴木氏の「人は成長し続ける」という信念に深く共感し、卒業後も生徒が確実に成長し続ける姿を目の当たりにしており、その成長の可能性を信じて支援を行うことの大切さを語りました。また、生徒のやりたいことを引き出すために、学校側からもさまざまな職業の選択肢を提示し、共に考えていくアプローチの重要性を述べました。
・当事者の挑戦を阻む見えない壁〜福祉従事者への問い〜
ここで議論の焦点となったのが、「当事者の挑戦を阻んでいるのは、実は私たち福祉従事者や親自身ではないか?」という重い問いです。親や支援者は、良かれと思って先回りし、「失敗させないように」と安全な道ばかりを用意してしまいがちです。夏目氏の講演でも指摘された福祉側の甘えや過保護が、結果として当事者の「自分で選び、失敗から学ぶ権利」を奪っている可能性に目を向ける必要性が提起されました。夏目氏は語ります。「自分で選択した結果の失敗は、本人にとって非常に価値のある経験として蓄積されます。失敗を恐れずに挑戦させる意義は計り知れません」。壷内氏もこれに強く呼応し、「『可愛い子には旅をさせよ』と言いますが、就職して合わなければ別の道を探すといった、失敗しても何度でも挑戦できる柔軟な環境と心構えが必要なのです」と訴えました。
・未知の仕事に対する本人のやりたいことをどう引き出すか
では、経験したことのない未知の世界に対して、本人の興味をどのように引き出せばよいのでしょうか。就労選択支援の現場で支援を行う水本からは、現場の実践に基づく共有がありました。言葉だけでは伝わりにくい場合、実際の職場の写真を見せたり、対話を重ねたりしながら、少しずつ体験の機会を提案することで、本人のやってみようという気持ちや深い自己理解を促していると語りました。
・働くことの本当の意義
議論は、働くことの本当の意義へとさらに深まりました。鈴木氏は、「働くことは単に収入を得ることだけが目的ではなく、人の役に立ち、感謝され、必要とされることで、自身の存在意義を感じられるもの」であると力説しました。どんなに重い障がいがあっても、本人の興味・関心と環境がマッチすれば、社会の中で確実に役割を持ち、輝くことができるのです。
・情報発信の重要性と、社会の分断を越えて
地域社会や地元企業との関わりについて、壷内氏からは「企業がどのような障がい者雇用を行っているのかという生の情報が、親や当事者に十分に届いていない」という切実な課題が指摘されました。情報が受け取れなければ、存在しないのと同じであり、結果的に本人の選択肢を狭めてしまいます。企業や支援機関が連携し、障がい者が実際に働いている姿や多様な働き方を積極的に地域に発信し、選択肢を可視化していくことが不可欠であることが確認されました。
・企業にとっての障がい者雇用は「義務」ではなく「戦力」
また、地元企業における障がい者雇用についても、大きなパラダイムシフトが求められています。法定雇用率を満たすための「やらなければならない義務」や「社会貢献」としてではなく、深刻な人手不足が叫ばれる社会において、企業を最前線で支える「確かな戦力」としての視点です。議論を通して全体で共有されたのは、「福祉、教育、企業、健常者といった社会の分断が、結果的に障がいの有無に関わらず、あらゆる人の活躍を阻んでいる」という気付きでした。双方が歩み寄り、この見えない分断をなくしていくことで、障がいのある方は企業にとって絶対に欠かせない力になり得るのです。
最後に鈴木氏から、これからの地域社会のあり方について力強いメッセージが送られました。
「昔は障がいのある方が地域に支えられてきたが、今は障がい者が地域を支え、企業の力になる時代へと変化している。」
就労選択支援という新しい仕組みを契機として、支援者、家族、企業、学校が手を取り合い、障がいのある方が確かな働き手として必要とされ、そして誰もが失敗を恐れずに応援されながら挑戦できる今治の地域づくりを進めていく。そのための強固なネットワークづくりの重要性を参加者全員で共有し、熱気あふれるパネルディスカッションは幕を閉じました。
・参加者アンケートからの生の声
本シンポジウムには、終了後も非常に多くの反響が寄せられました。皆様からいただいたアンケートの一部をご紹介します。
「親の立場として参加しました。今回、子どもに対する漠然とした不安の正体が、将来の就学や就労が未知の世界であるからだとわかりました。就労については、就労選択支援を知ったことで、『将来利用することを楽しみにし、今は不安になる必要はない』と思うことが出来るようになった気がします。今後は、子ども自身の選択や決定を尊重し、失敗や成功を繰り返す姿を見守る子育てを心がけようと思いました。」(ご家族)
「支援を増やすことも大切だと思うが、支援があることで、かえって選択肢が狭くなってしまうこともあるのではないかと感じた。障がいの有無に関わらず、その人の好きなことや得意なことに目を向け、可能性を広げることも大切だと思う。(中略)本人の好きなことや得意なこと、夢や挑戦したいことを大切にし、周囲がその可能性を信じることも大切だと感じた。一人ひとりが自分らしく働ける社会になってほしい。」(ご家族)
「自分で決めることがとても大切であり、一番の人としての尊厳であると思った。本人がいない所で、本人のことを決めてはいけない、本人を置いてけぼりにしてないかと改めて考えさせられた。」(福祉関係者)
「自分の中で勝手に障がい者の方の仕事と一般的な仕事を切り離していたことを改めて実感しました。障がいの有無や老若男女などどれも問わず皆んなが『仕事に楽しい』を!!!」(福祉関係者)
「自己選択、自己決定しやすい地域、ハードルをさげること、受け入れ、理解、失敗が成長につながりやすいことなどがあたりまえになるとよいと思います」(行政関係者)
「やはり『相互(福祉、企業、本人、教育etc)理解』が今後の動きで重要となりそうな気がした。(中略)本人の自己理解ももちろん必要だが、本人が自分らしく地域で活躍するには、『障がい』関係なく、その人たちを理解し、各々が実践することが一番の近道だと思う。」(障がいのある当事者)
結び:自分らしい働き方を選択できる今治へ
・「どこで・どう働く」を本人が選べる地域へ。
今回のシンポジウムは、就労選択支援という新しい制度をお伝えする場であると同時に、福祉、教育、企業、そして地域社会の間に存在する見えない壁を取り払い、すべての人がその人らしく輝ける未来に向けた対話のスタート地点となりました。
当事者やご家族は、未知への不安を手放し、挑戦の機会を楽しむ心構えを。地元企業は、障がい者雇用を義務ではなく、自社を強くする戦力として。そして私たち福祉従事者は、無意識のうちに本人の可能性を狭めていないか常に自問し、共に歩む伴走者として。
今治市就労選択支援事業所連絡協議会、社会福祉法人来島会は、これからも地域の様々な機関と手を取り合いながら、障がいの有無に関わらず、誰もが意義ある働き方ができる今治の実現に向けて歩みを進めてまいります。
ご参加いただいた皆様、そして本イベントの開催にご尽力いただいたすべての関係者の皆様に、心より厚く御礼申し上げます。
これからの今治の就労支援の広がりに、どうぞご期待ください。