2026年6月21日、今治市総合福祉センター「愛らんど今治」の多目的ホールにて、2026年度就労支援シンポジウム「自分らしい働き方を選択できる地域へ」~新しい福祉サービス「就労選択支援」の活用と、今治で広がる就労の可能性~が開催されました。
本シンポジウムは、今治市で2025年12月より就労選択支援事業を実施するジョブサポートセンターここすたと、社会福祉法人Signが共同で立ち上げた今治市就労選択支援事業所連絡協議会と、社会福祉法人来島会の共催により開催しました。
2025年10月より本格スタートした新しい福祉サービス「就労選択支援」。これは、障がいのある方ご本人が「どこで、どう働くか」を自分自身で選び、決定していく過程をサポートする仕組みです。
当日は、障がいのある当事者やご家族をはじめ、教育関係者、福祉従事者、行政関係者など、100名超の方々にご参加いただきました。
「障がいの有無に関わらず、誰もが意義ある働きができる地域」をどうつくっていくか。当日の模様をレポートいたします。(前後編の前編)
基調講演①「障がいがある当事者が地域ではたらくとは」
夏目芳行氏(障害者就業・生活支援センターぼらんち センター長)
本シンポジウムの最初のプログラムとして、静岡県で障害者就業・生活支援センターのセンター長を務める夏目芳行氏にご登壇いただき、「障がいがある当事者が地域ではたらくとは」をテーマに基調講演が行われました。

・学校の中だけの支援に限界を感じ、福祉の現場へ
夏目氏は、特別支援学校の教員として22年間勤務したのち、現在のセンターへと転職された経歴をお持ちです。
教員時代は、事業所の一斉説明会等を通じて卒業生の進路を決定して送り出していたものの、卒業後に当事者が苦しんだり、すぐに離職してしまったりする現実を目の当たりにしました。
学校だけの支援に限界を感じ、「卒業生が安心して働ける地域をつくりたい」という強い思いから、地域づくりに飛び込んだ原点が語られました。
・地域が抱える悩みとすれ違いを越えて
夏目氏が福祉の現場で直面したのは、企業、支援者、学校のそれぞれが一生懸命になるあまり生じてしまう「悩みとすれ違い」でした。
企業側は「支援機関が伴走しないと採用できない」「特別支援学校からしか採用しない」と考え、支援者側は「作業の戦力になるから企業へ送り出したくない」「就労は福祉の延長であるという甘え」がありました。そして学校側も「失敗すると分かっていても、保護者の意向を優先して卒業までに無理に進路を決めてしまう」といった課題を抱えており、これらが結果として当事者へのしわ寄せとなっていました。
これらの課題を解決するため、夏目氏らは関係機関がチームとなって企業を支えるネットワークの構築に着手しました。その一環として、年に2回、働く障がい者に関わるすべての人が集まる「オールスタッフミーティング」を開催し、互いの役割を理解し、顔の見える関係性を地域に築き上げていきました。
・しごと体験「輝きウィーク」の劇的な成果
その強固なネットワークを活かした最大の取り組みが、しごと体験「輝きウィーク」です。主に就労継続支援B型事業所を利用する企業での就労経験がない方や不安を抱える方に対し、就職を目的とせず、まずは2時間だけ企業での仕事を体験してもらう企画です。
講演では、NHKのニュースでも取り上げられた実際の事例が紹介されました。普段は就労継続支援施設で自動車部品の組み立てを行っている当事者が、初めての企業体験で伝票の確認作業などに挑戦し、またやりたいと前向きな感想を抱いた様子が報告されました。
その他にも、以下のような劇的な変化や自己理解の事例が紹介されました。
- 企業未経験の男性が、自らひげを剃りスーツを購入して打ち合わせに臨み、箱作りの体験で大きな充実感を得た。
- 小売店での品出し体験が楽しくて「時間が足りない」と感じ、それが自信となってすぐに就職を果たした。
- 軽作業の体験で1時間も立っていられず、自分の体力のなさを実感し、まだB型事業所で体力をつけると前向きに自分の現状を受け入れた。
この取り組みは当事者だけでなく、受け入れた企業側にも「社員にとって良い刺激になった」「自社の障がい者雇用を見つめ直した」という変化をもたらし、支援者側も「当事者が普段見せない意欲的な姿を発見した」「これまでの過度な支援を反省した」など、地域全体の意識向上につながりました。この輝きウィークは、令和8年からは静岡県の全県事業となっています。
・新しい制度で自分の応援者が増える地域へ
最後に夏目氏は、新たに始まる就労選択支援への強い期待を語りました。
「このサービスを通じて、当事者が自分自身のことをより深く知り、多機関の支援者が本人のことを共に考える機会が生まれます。当事者が一歩踏み出すことで、自分の応援者が増え、見える世界が変わり、将来が楽しみになる。一歩踏み出すことを応援してくれる人がたくさんいる地域をつくっていきましょう。」と今治の地域づくりに向けた、大変力強いメッセージで基調講演は締めくくられました。
基調講演②「就労選択支援の仕組みとこれから」
鈴木大樹氏(厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課 就労選択支援専門官)
本シンポジウムの基調講演②では、厚生労働省の鈴木大樹氏にご登壇いただき、「就労選択支援の仕組みとこれから」をテーマにお話しいただきました。
鈴木氏は、教育分野、民間企業を経て障がい者就労支援の現場へと転身し、現在は厚生労働省で障がい者就労支援施策を牽引されているという多彩な経歴をお持ちです。
現場経験に裏打ちされた熱い言葉で、新制度に込められた本質的な意義が語られました。

・支援の根底にある「人は成長する」という視点
鈴木氏が支援において最も大切にしている信念、それは「人は成長する」ということです。障がいの有無にかかわらず、人は年齢や経験を重ねるごとに成長し、気持ちも変化していきます。
支援者は障がいだけを見るのではなく、本人の成長や強みを伸ばす視点を持つことが重要であると強調されました。また、就労支援においては「環境との相互作用」というキーワードが挙げられました。
本人が職場で上手くいかないとき、それは本人の能力不足ではなく、環境とのミスマッチが原因であることが多くあります。本人の特性と環境がしっかりとマッチングすれば、どんな方でも就労は可能になるという力強いメッセージが発信されました。
・新制度「就労選択支援」が生まれた背景
障がい者福祉の歴史を振り返ると、約20年前の障害者自立支援法施行以前は、障がいのある方が利用する施設は行政によって決められる時代でした。その後、本人がサービスを選べる時代へと大きく変化し、就労への扉が開かれてきました。
しかし、ここに新たな課題が生まれます。本人の就労能力や可能性を客観的に評価し、それを具体的な選択へと活用する手法が確立されていなかったのです。
その結果、一度「就労継続支援A型」や「就労継続支援B型」といったサービスを利用し始めると、そこで固定化されてしまい、本人の成長や変化に合わせて他の選択肢を検討する機会が失われてしまう現状がありました。
・就労選択支援の本当の目的とは
このような背景から生まれた就労選択支援ですが、鈴木氏はこのサービスの目的について、就労の可否を判断したり、どのサービスを利用するかを強制的に振り分けたりするものではないと説明しました。
最大の目的は、本人の自己決定や意思を尊重し、本人の選択を支援することです。
支援のプロセスにおいて重要なのは、支援者が一方的に評価を下すのではなく、本人と協同して整理を行うことです。本人が聞いて、見て、感じたことを共有し、自己理解を深めるプロセスそのものが支援となります。
・選択肢を広げる具体的な情報提供と多機関連携
本人の選択を支えるためには具体的な情報提供が欠かせません。
例えば、「電車に関わるお仕事がしたい」という方に対し、ただ就労系サービスを紹介するのではなく、「ある鉄道会社では、電車の車庫に隣接している鉄道職員さんが、寝泊まり出来る施設の清掃などに携わる障がい者雇用の事例を紹介したり」といった生の企業等での働き方についての情報を本人へ伝えることで、本人は働くことに対してのワクワク感や、就労先・働き方について具体的な選択肢として考えられるようになります。
支援者は企業や雇用に関する正しい情報を常に持ち、本人の希望や関心等に結びつける役割も大切になります。
また、客観的なアセスメントを行うためには、事業所と本人という2者間だけでなく、多機関が連携することが不可欠です。
様々な支援者が関わることで評価が主観的になるのを防ぎ、そこで得られた本人の強みや配慮事項といった情報を、次の就労先や企業へと効果的に引き継ぐことができます。
・失敗を恐れずチャレンジできる地域へ
支援者は往々にして「失敗させたくない」と先回りして心配してしまいますが、鈴木氏は「失敗したとしても、本人がチャレンジすることを地域の中で支える仕組みが大切」と訴えました。
就労選択支援は、特別支援学校の生徒が進路に悩んだ時だけでなく、すでに就労継続支援B型などで働いている方が「もっとこんな働き方ができるかもしれない」と次のステップを考える際にも就労選択支援は活用できる制度です。
この新しいサービスを通じて、本人の成長を信じ、地域全体でそのチャレンジを応援していく。そんな未来への期待に満ちた基調講演となりました。
(後編へつづく)